国家税務総局は毎年、事前確認協議(APA)の概況を報告しており、APAレポート2024年版(中英文)が2025年11月に公表された。ここでは、2005年から2024年までの統計データを基に分析している。
目次
1. 概況
【表1 年別合意件数(件)】
| 合意件数 | ユニ※1 新規 | ユニ継続 | バイ※2 新規 | バイ継続 | 合計 | 注記 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2005~2019年 | 93 | 8 | 57 | 19 | 177 | |
| 2020年 | 11 | 4 | 8 | 6 | 29 | アジア9/北米2/EU2/他1 |
| 2021年 | 8 | 1 | 8 | 3 | 20 | アジア8/北米1/EU2/他0 |
| 2022年 | 16 | 3 | 8 | 7 | 34 | アジア10/北米3/EU2/他0 |
| 2023年 | 9 | 0 | 14 | 13 | 36 | アジア22/北米1/EU4/他0 |
| 2024年 | 12 | 0 | 22 | 5 | 39 | アジア19/北米2/EU6/他0 |
| 合計 | 149 | 16 | 117 | 53 | 335 |
※1 ユニ:ユニテラルの略、※2 バイ:バイラテラルの略
(出所:公表データをもとに筆者作成)
【表2 地域別合意件数(バイラテラルのみ)】
| 地域 | 累計(件) | 比率(%) | 2022~2024年(件) |
|---|---|---|---|
| アジア | 118 | 69 | 51 |
| 欧州 | 33 | 19 | 13 |
| 北米 | 18 | 11 | 5 |
| その他 | 1 | 1 | 0 |
| 合計 | 170 | 100 | 69 |
(出所:公表データをもとに筆者作成)
APAとは、納税者と税務局との関連取引価格の算定方法や内容に関する事前の合意を指す。ユニラテラルは中国税務当局と在中国納税者(企業)との合意、バイラテラルは中国税務当局と相手国税務当局(例えば日本の場合は国税庁)とがそれぞれに所在する企業(中国現地法人と日本法人)と結ぶ合意で、納税者からの申請を受けて協議し、合意に至った場合において各所在国法人がその合意条件に基づき関連取引を実行するというものである。
バイラテラルAPAは2005年に日本との間で締結されたものを初例とし、2007年には米国、韓国とも締結、2011年にシンガポール、2014年にスイスとも締結とその対象国・地域は広がっているが、一貫してアジア、特に日本とのAPAが合意件数の多くを占める。地域別では約3分の2がアジア地域の税務当局との合意である。
2022年からの直近3年間における二国間(バイラテラル)APA合意件数は計69件と、毎年の合意件数も二桁と比較的安定している。特に2024年は、新規のバイラテラル合意件数が22件と大幅に増加した。
2. APA申請条件
中国におけるAPA申請資格条件としては、直近の関連取引が4000万元以上であることを必須条件とし、企業納税信用等級がA級以上、過去に移転価格課税を受けたことがある等1に該当する場合は、優先的に申請を受理するとしている。
対象期間は将来の3年から5年の課税期間であり、過去10年を遡求して対象期間に含めることができる。(中国の課税期間は、暦年(1月1日~12月31日))
APA申請は各省/直轄市レベルの所轄国家税務局2 を窓口とし、ユニAPAは所轄当局及び国家税務総局の審査を経て発効し、バイAPAは国家税務当局と相手国税務当局との協議、合意を経て発効となる。
3. 協議年数
【表3 協議年数別合意件数(バイラテラルAPAのみ)(件)】
| 協議年数 | 2年未満 | 2年以上 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 2005~2021年 | 51 | 50 | 101 |
| 2022~2024年 | 36 | 33 | 69 |
| 合計 | 87 | 83 | 170 |
(出所:公表データをもとに筆者作成)
相手国との協議を開始してから合意に至るまでに要する年数としては、2022年から2024年の直近3年間で合意したバイラテラルAPA計69件の半数弱が2年以上の年月を要している。
二国間協議では、双方の当局とも自国の課税所得を多く確保したいと考える上での、相互検証可能な客観的な数値データや移転価格の論理に則った議論を重ねた結果の合意形成であるから、それなりの年月を要することは容易に想像できる。また当局は申請を受理したとしても合意達成の義務を負うわけではないので、議論を重ねても合意不成立となる可能性もある。
4. 取引種別と業種
【表4 取引種類別合意件数(ユニラテラル/バイラテラル合計)】
| 取引種類 | 累計件数(件) | 比率(%) | 2022~2024年件数(件) |
|---|---|---|---|
| 有形資産 | 271 | 56 | 82 |
| 無形資産 | 99 | 20 | 35 |
| 役務 | 113 | 23 | 33 |
| 金融 | 5 | 1 | 4 |
| 合計 | 488 | 100 | 154 |
(出所:公表データをもとに筆者作成)
【表5 取引種類別合意件数(ユニラテラル/バイラテラル合計)】
| 業種 | 累計件数 | 2022~2024年 |
|---|---|---|
| 製造 | 244 | 66 |
| リース | 9 | 0 |
| 卸小売 | 44 | 19 |
| 運輸・倉庫 | 7 | 2 |
| 技術サービス | 5 | 2 |
| 情報サービス | 7 | 4 |
| 金融 | 2 | 2 |
| 電気・ガス・水道 | 1 | 0 |
| 建設 | 2 | 1 |
| 飲食 | 1 | 0 |
| その他 | 2 | 2 |
| 合計 | 324 | 98 |
取引種類別では有形資産取引の比率は直近3年で半数以上と相変わらず多いが、無形資産と役務の取引の件数が増えている。業種別では卸売業とサービス業の合意事案が増えているのが特徴的だ。取引種類別合意件数の累計数(488件)は重複計上及び継続更新を含んでいるので、APA合意累計数(335件)とは不一致である。このうち、製造業の244件及び卸小売業の44件は有形資産取引の申請が中心なので、有形資産取引合意件数の271件はほぼ製造業か卸小売業からの申請であろう。製造/卸小売以外の業種からの申請合計36件と無形資産/役務取引の合計212件を比較するに後者が大幅に超過しているから、無形資産/役務取引の多くは製造業の技術者派遣費用や技術ロイヤリティなどを対象としたものであり、有形資産取引と併せて申請されたものと推察される。
5. 算定方法
【表6 算定方法別APA合意件数(ユニラテラル/バイラテラル合計)(件)】
| 移転価格算定方法 | 累計件数 | 2024年(単年) | 2022~2024年 |
|---|---|---|---|
| CUP | 12 | 2 | 4 |
| RP | 4 | 1 | 2 |
| CP※1 | 21 | 0 | 0 |
| TNMM | 328 | 29 | 103 |
| PS | 14 | 0 | 2 |
| その他 | 12 | 0 | 5 |
| 合計 | 391 | 32 | 116 |
※1 CPとは原価基準法
(出所:公表データをもとに筆者作成)
算定方法では、製造業の中国子会社を比較分析の対象とする移転価格分析が多いことから、従来、営業利益ベースの妥当性検証に適する取引単位営業利益法(TNMM)が多用されており、このトレンドは変わらない。一方で、独立価格比準法(CUP)及び再販売価格基準法(RP)の件数が伸びている。CUPによる合意があることは、内部比較対象取引における販売単価を物差しとする、移転価格分析の有効性も示唆している。また、RPの合意があることは、売上総利益ベースでの分析が適用されるケースの可能性を示している。利益分割法(PS)は調査において中国当局が好んで選択する算定方法ではあるが、APAにおいては合意件数が伸び悩んでいる。特に二国間APAで合意に達するには、長期にわたる協議を覚悟する必要がありそうだ。
6. 日本における相互協議の状況
ここで日本における相互協議3の状況をみてみよう。令和6事務年度(2024年(令和6年)7月から2025年(令和7年)6月 )の処理件数242件のうち194件が事前確認事案である。繰越件数は全部で773件、うち事前確認が595件を占める。平成26年度の繰越330件からほぼ毎年積み上がっている。繰越事案の13%が中国であることから、おそらく77件が申請受理済で審査中あるいは協議中の案件であると考えられる。当該事務年度での中国を含む経済協力開発機構(OECD)非加盟国との相互協議発生件数は112件、処理件数104件、繰越件数334件(うち事前確認213件)、処理に要した平均期間は49.0カ月とあり、前年の42.2カ月から増加していることからも、OECD非加盟国との相互協議が一筋縄では行かない難しさを物語っている。
7. 中国における事前確認協議の状況
【表7 事前確認協議の段階別件数(2005年~2024年)(件)】
| 協議段階 | ユニAPA | バイAPA | 合計 |
|---|---|---|---|
| 意向段階 | 0 | 70 | 70 |
| 申請段階 | 3 | 107 | 110 |
| 合意段階 | 165 | 170 | 335 |
(出所:公表データをもとに筆者作成)
事前確認は納税者からの「事前確認協議予備会談の申請」に始まり、初期的な分析を経て当局が協議を進めるに相当であると判断すれば、納税者に「事前確認協議意向書」の提出を促す。上記の「意向段階」の件数は、この段階に進んだ企業数を示している。
次に当局は事案に対する機能・リスク分析、比較対象会社のデータ、関連取引額及び利益水準、移転価格原則及び算定方法、バリューチェーンの概要と価値貢献分析、前提条件などを詳細に検証した後、納税者に「事前確認協議正式申請書」の提出を許可する。この段階に進んだ企業は、上記の「申請段階」に数えられる。「合意段階」は文字通り、バイラテラルAPAなら相手国との協議が成立した件数である。以下、バイラテラルAPAの数値に注目しよう。
表7における合意段階の170件は、表1の年別合意件数の合計と一致しているので累計数である。意向段階70件と申請段階107件の合計177件が日本でいうところの繰越件数に相当するなら、日本の595件に比べるとまだまだ少ないようにみえる。
2018年以降についてAPAレポートが公表する意向、申請、合意段階の件数を年別に並べてみよう。
【表8 段階別件数の年推移(件)】
| 段階 | 2018 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | 2024 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 意向 | 32 | 69 | 35 | 37 | 47 | 60 | 70 |
| 申請 | 56 | 42 | 80 | 100 | 98 | 89 | 107 |
| 小計 | 88 | 111 | 115 | 137 | 145 | 149 | 177 |
| 合意 | 67 | 76 | 90 | 101 | 116 | 143 | 170 |
(出所:公表データをもとに筆者作成)
2024年の合意件数170件は、表1のバイラテラル新規件数117件と継続件数53件の合計に一致しており、毎年積み上がっていることからも、これまでの累計件数とみてよいだろう。意向段階及び申請段階の各年の件数は年末における積み残しだと仮定すると、意向プラス申請段階の合計件数が中国における繰越事案と想定され、2024年末(小計)では177件と数えられる。国税庁の対中国繰越件数(77件)が中国側における対日本繰越件数と仮定するなら、繰越総数(177件)に占める対日本案件(77件)の割合は43.5%となり、実感的にもそんなところだろうと推測される。
これらの数値だけでは、全ての案件が「意向→申請→合意」と順調に次の段階へと進んでいるのかは見えてこないので、年件数の隙間を増加件数と減少件数で埋めてみよう。
【表9 年別における段階別増加件数と減少件数(件)】
(出所:公表データをもとに筆者作成)
合意段階の増加=申請段階(から合意段階へ)の移行、申請段階の増加=意向段階(から申請段階へ)の移行、という関係だ。ここで、どうしても2018年の申請件数がマイナスとなってしまう。示唆するところは申請の取下げだ。
筆者の経験では、案件が意向段階に至ったとしても正式申請に至るまでに数年を要し、協議開始の段階で元々の申請期間(5年程度)の半分以上が過ぎてしまう、ということがあった。事前確認は将来年の予測に基づく利益水準等に対する合意であるから、経済状況に変化が生じて申請の前提条件に合致しなくなったり、利益水準が悪化したため納税者自ら申請を取り下げる、という状況もあるだろう。協議年数の平均2年に意向段階の待機年数を加えると、意向から最終合意までに要する期間として4、5年はみておかなければならないだろう。納税者自ら、あるいは当局から合意可能性の低い案件の整理申出があることも十分想定される。
直近2年の意向段階の増加は年47件、合意件数が年27件であるから、処理能力以上に意向を受理しているようにみえる。それでも繰越件数が過剰にならないように、意向自体を慎重に受理しているのだろう。形式的な申請条件が整っているだけではなく、相手国との合意が得られやすい案件を優先して受理していることが想像できる。
納税者としては処理能力の増大を期待したいところであるが、国家税務総局のマンパワーの制約や、日中相互協議であれば、年3回程度の対面協議開催4という回数と方式の制約からなかなかそうもいかないようだ。
日中ともに、人的、時間的制約がある中で当局の方々の努力には敬意を表したい。その一方で、日中双方の当局が「APAを申請する前にもう一度よく考えて」というニュアンスで情報発信をしている(ように見受けられる)環境下において、納税者には、先ずは自主的なプライシングコントロール、次に万一の税務調査では適切な対応と説明及び合理的な課税内容の取得への努力、最終手段としての(G7諸国の傾向とも合致した)課税事案としての相互協議、という選択肢の検討を促しているようである。
- 過去の調査資料から申請法人の状況をよく知ることができるため。 ↩︎
- 各省及び直轄市(31省市)に加え、伝統的に移転価格実務に習熟した大連、青島、厦門、寧波の4市が連絡先として紹介されている。 ↩︎
- 令和6事務年度の「相互協議の状況」について ↩︎
- 『月刊国際税務』(税務研究会)2025年5月号「最近の相互協議の状況について」(著:比田勝隆博)を参照 ↩︎