中国会社法の2024年7月1日改正は、日系在中国子会社の経営管理にも多くの影響を与える内容になっている。ここでは改正の重点を二つに絞って解説し、中国法人のコーポレートガバナンス(安全性)と経営実務(効率性)の両面から今後の子会社管理について考えてみたい。
目次 会社法改正の重点ポイント
監査役の責任と社外監査役の活用
会社法改正の重点ポイント
一言でいうなら”経営の現地化”だろう。
従業員代表の董事任命(会社法68条)
従業員300人以上の有限責任会社において董事会構成員の内に従業員代表を置くこと、と規定されている。子会社の経営機関を本社社員だけでメンバー構成するわけにはいかないのだ。ただし監事会を設置してそこに従業員代表が任命されている場合や、従業員300人未満の会社においては従業員代表の董事任命は任意とされる。
当該代表は従業員代表大会なとの民主的な選挙を経て任命された者である必要がある。代表となれる者の資格要件として、例えば中国国籍を有する者、などの国籍条項は見あたらず、当該法人と雇用契約を結んでいる従業員であれば外国籍従業員であっても認められうる。日本からの出向者であっても就業ビザ取得目的から現地法人と形式的に雇用契約を締結することが一般的なので、形式的には被任命者としての資格を有する。
管理職にある職員(中国籍でも外国籍でも)でも任命できるか。労働組合の代表とは異なり、董事という経営の意思決定に関わるメンバーの一員になるわけであるから、逆に管理職ぐらいの経験者が選ばれるべきであろう。従業員代表董事を選ぶとしたら、会社の歴史をよく知る古参の中国籍従業員或いは中国人スタッフとのコミュニケーションに問題のない語学の達者な(日本人)出向者のいずれか、がよいだろう。
従業員の代表として選ばれた董事(以下「従業員董事」)は、その選定母体たる従業員へ董事会の内容を報告する義務を負うものではないし、逆に当該内容を外部に逐一報告するようであっては経営会議の体を成さないであろう。当然ながら各董事は董事会で話される内容について守秘義務を負う。
それでも情報管理の視点から考えれば、必要なメンバーに必要なだけの情報提供を、ということが求められよう。董事会を毎月開き、そこでさまざまな経営問題を議論してきた会社が、新董事メンバーの加入により、董事会は会社の重要な意思決定のみを行う会議体とし、董事会の下部組織として販売、製造、人事など経営の各方面における実務的な話し合いの場として”経営委員会”を設けるなどの対応をしているところもある。
董事会の専決事項として会社法67条に挙げられているものには、(1)株主会の招集や議案の策定、(2)会社の経営計画や投資案件の決定、(3)利益処分案の策定、 (4)増資、減資、合併、分割、清算等の議案策定、(5)会社組織の設置決定、(6)総経理、副総経理、財務責任者の招聘、解雇、報酬などの決定、(7)会社の基本的な管理規定、管理体制の決定、などがあり、少なくともこれらは董事会で決定する必要がある。
董事会で決定された年度経営計画の毎月の進捗報告、目標達成のための検討、部門間のすり合わせなどは別の会議体で討議することに矛盾はない。一部メンバーの露骨な除外と映らない配慮の上でそれぞれの目的に相応しい会議体を設置するのがよいだろう。
従業員代表の監事任命(会社法76条)
監事会(監査委員会)を設置してそこに従業員代表を任命する場合には、従業員董事の任命は不要とされる。監事会は、株主代表、大株主の従業員代表などから3名以上のメンバーで構成され、このうち従業員代表は三分の一以上とすること、とされる。従業員代表の監事選定では董事選定と同じく従業員代表大会なとの民主的な選挙を経て任命された者である必要がある。従業員董事に代えて監事会を設置する場合には、一名の従業員代表、二名の本社社員(或いは本社の任命する外部監査人)が現実的だろう。
監事(会)の職権には、(1)会社の帳簿の検査、(2)董事、高級管理職員の業務執行の監督、(3)董事、高級管理職員の解任動議の株主会への提出、(4)株主会召集の発議、(5)董事が召集しない場合の株主会の召集及び主催、(6)株主会への議案提出、がある。董事会をそのまま経営会議体として残したい会社は、監事会を設置して従業員監事を任命する、という機関設計が考えられる。
いずれの監事も董事会に列席することができる(新法79条)のではあるが、従業員監事は一般監事、株主代表監事を主席監事とし、主席監事が(毎回)董事会に出席、とすることであれば角が立たないであろう。但し主席監事は監事会において、出席した董事会の議案につき他の監事に報告する義務は当然ある。また監事会は董事、高級管理職員に職務執行報告を求めることができる点にも注意を払う必要があろう。
監査役の責任と社外監査役の活用
監査役の責任強化
日本の監査役に相当する監事は、董事や総経理など高級管理職員の経営執行を監督する役割が期待され、そのために会社帳簿の検査権が与えられている。それだけの権限が与えられているということは、逆に言えば権利を正しく使う義務と使わなかったときの責任もあるということだ。会社法改正以降、会社に損害が生じた場合に董事と同様に監事にも責任が生じるリスクが高まっているといえる。
日系中国子会社では、監事として本社経理部門の責任者を任命することが依然として多いが、子会社経営の監督役を十分に果たせているだろうか。監査役の行う帳簿の検査とは会計記録が正しいかではなく、その背景すなわち、”資産は十分に保全されているか”、”不正や利益相反行為はないか”、”労使関係は良好か”、”内部統制を無効化する越権行為(権限を超えた契約締結など)はないか”、といった事実関係を確認することだ。多くても年に数回の出張でこれらのリスクに網羅的に対処するのは、語学に堪能な方であっても至難の業だろう。
現地社外監査役の活用
そこで現実的な選択肢となってくるのが、会社の経営を知る本社任命の監査役(監事)に加えて、当地の実務を知りフットワーク軽く動ける在外弁護士や公認会計士をもう一名社外監査役(社外監事)に任命するというものだ。監事2名であるなら監事会の設置は不要である。社外監事が内部統制の無効化への対処として有効な、外部通報制度(ホットライン)の受け口となるのもよいだろう。会社法改正から2年経過となる今年は、中国子会社の機関設計を見直す時期にきているといえよう。
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