今から進めたい、電子承認・数電票・電子会計記録への準備
中国では、経費精算、購買申請、支払申請及び契約承認のオンライン化が広く進んでいます。しかし、承認画面が電子化されていることと、会計資料が受領、検証、記帳、保存、検索及び監査提示まで電子データでつながっていることは同じではありません。本稿では、中国の制度と企業実務の現状を整理し、中国の日系企業が今から整えておきたい事項を解説します。
1 電子承認と会計帳票の全面電子化は別物
外資系、中資系を問わず、中国では出張旅費、交際費、購買申請、支払申請及び契約稟議等を社内システム又はモバイル端末で処理することが一般化しています。承認基盤としては、釘釘(DingTalk)や企業微信(WeCom)等が利用され、申請と承認が画面上で完結します。
一方、財務部門では、承認後に紙の発票、契約書、納品書及び支払証憑を回収し、電子申請と照合して保存している場合が少なくありません。この状態は電子承認ではありますが、会計帳票の全面電子化ではありません。全面電子化には、電子原本の真正性、完全性、可読性、検索性、改ざん防止、長期保存及び監査証跡を一体として確保する必要があります。
2 電子保存の制度基盤はすでに整っている
財政部・国家档案局の関連通達(財会〔2020〕6号)は、適法な電子会計証憑が紙の会計証憑と同等の法的効力を持つことを明確にし、所定の要件を満たす場合には電子形式のみでの経費精算、記帳及び整理・保存を認めています。会計档案管理弁法も、真正性、完全性、可用性及び安全性の確保を条件として、電子会計記録の単独保存を認めています。
対象は発票だけではありません。公的機関の電子証票、電子乗車券・航空券、電子旅程表、電子税関納付書、銀行の電子入出金明細等の外部証憑に加え、社内で作成する会計伝票、帳簿、承認履歴及び保存記録までを、追跡可能なデータの連鎖として管理することが求められます。2025年からは関連規範と電子証憑会計データ標準の普及政策も施行され、政策の焦点は「電子保存できるか」から「標準化したデータで受領から保存までをどう接続するか」へ移っています。
3 数電票はPDF・OFDとXML等を併せて管理する
全面数字化的電子発票(数電票)は、紙を前提とせず、税務デジタル口座を通じて交付・受領されます。中国の電子証憑会計データ標準は、XML・XBRL等の構造化データに加え、人が閲覧するPDF又はOFDの版面ファイルも対象としています。実務では、機械処理に使う構造化データと、目視確認に使う表示用ファイルを対応させて保存することが重要です。
日本の適格請求書が取引と帳簿・消費税処理を結ぶ中核証憑であるのと同様に、中国の発票も会計・税務処理の中核証憑です。ただし、中国では、発票の発行・受領・検証が税務プラットフォームと構造化データにより強く結び付いています。数電票は2021年12月に一部地域で試行が始まり、2024年12月には全国展開となりました。統一基盤と標準が整った後の普及速度の速さを示す例です。
4 企業実務にみる電子化の3段階
| 段階 | 実務の状態 | 紙の扱い | 主要な管理課題 |
|---|---|---|---|
| 第1段階 | 電子申請・電子承認 | 会計証憑は紙で保存 | 電子申請と紙証憑の対応付け |
| 第2段階 | 電子証憑を一部電子保存 | 紙原本と電子原本が併存 | 原本判定、重複防止、真正性確認 |
| 第3段階 | 受領から監査提示まで全工程を電子化 | 紙は例外的に処理 | システム連携、権限、長期保存 |
現時点では多くの企業が第1段階又は第2段階にあり、第3段階に到達した企業はまだ少数です。第3段階では、仕訳から発票、契約、承認記録及び支払記録までを画面上で追跡できます。その一方で、アクセス権限、操作ログ、改ざん防止、バックアップ、災害復旧、保存期間及びデータ移行を含む管理体制が必要になります。
5 全面電子化がなお少数にとどまる理由
(1)紙と電子が併存している
数電票が電子化されても、契約書、検収書、物流資料及び社内作成資料に紙が残れば、紙と電子の二重管理が必要です。紙原本と電子原本を正しく区分し、同じ取引への二重計上や証憑の欠落を防がなければなりません。
(2)システムが分断されている
申請システム、会計ソフト、銀行、税務プラットフォーム及び記録保存システムが別々に動いている企業では、マスタ、証憑番号及び取引データの対応付けに負担が生じます。
(3)保存後の管理責任が決まっていない
電子ファイルを共有フォルダに置くだけでは、削除、上書き、閲覧権限、保存期間及び監査証跡の管理が不十分になりがちです。財務・税務・IT・法務・記録管理の役割と責任を定める必要があります。
6 中央政策と地方の運用には時間差がある
中央政府は、電子証憑会計データ標準、数電票及び電子会計記録を一体として普及させる方向を明確にしています。一方、制度が全国的に統一されても、所轄税務局や調査担当者の確認方法が直ちに同一になるとは限りません。従来どおり紙に出力した帳票を求められるのではないか、電子保存だけでは追加説明を求められるのではないかという懸念が、企業側に残ります。
これは、法令上すべての資料に紙保存が必要という意味ではありません。移行期には、構造化データ、表示用ファイル、電子署名、承認履歴、操作ログ及び帳簿との対応関係を一体として提示できる状態が重要です。中央の制度設計に加え、税務調査や記録検査の現場でも電子原本を受け入れる運用が定着することが、全面電子化の最後の条件になります。
7 標準化が進むと普及は一気に加速する
現在は、取引量が多く、専任の財務・IT・記録管理部門を有し、相応のシステム投資と運用体制を備えた企業から全面電子化への対応が始まっています。その一方で、第三者サービスプラットフォームや代理記帳機関を利用して、電子証憑の受領、会計処理及び保存を行う方法も政策上示されています。
中国では、中央の政策目標、技術標準及び共通プラットフォームが確立すると、全国展開が短期間で進む傾向があります。標準化されたクラウド型サービスが中国企業を含む市場全体に普及すれば、日系の小規模現地法人にも対応が急速に求められる可能性があります。固定的な開始時期を予測するより、電子原本と承認履歴を今から残し、将来のシステム移行に備えることが現実的です。
8 今から整えておきたい3つの準備
(1)証憑と原本の棚卸し
発票だけでなく、契約、発注、検収、物流、支払、経費精算、会計仕訳及び申告資料までを一覧にし、「電子原本」「紙原本」「社内作成資料」に分類します。
(2)承認から保存までの業務フローの可視化
釘釘、企業微信等の申請・承認から、会計処理、支払、保存、検索及び監査提示までを一つの流れとして確認します。事後承認、例外処理、代理承認及び紙資料との対応付けも明確にします。
(3)データ・権限・証跡のルール整備
構造化データと表示用ファイルの取得・保存、証憑番号、取引先コード、保存期間、アクセス権限、操作ログ及びバックアップを標準化します。将来システムを切り替えても、データと証跡を移行できる設計が必要です。
9 中国現地法人の状況に応じた準備支援
全面電子化を一度に完成させる必要はありません。現在の業務、証憑、システム及び保存状況を確認し、優先度の高い領域から段階的に整備できます。弊社では、中国現地の会計・税務実務と日本本社の管理要請をつなぎ、全体設計から特定業務のスポット支援まで対応します。
電子承認・業務フロー再設計
釘釘・企業微信等の申請フォーム、承認権限、承認経路、代理・例外・事後承認及び監査履歴を業務実態に合わせて整えます。
数電票・電子証憑・会計連携
PDF・OFDとXML等の受領・対応付け、真正性確認、重複防止、会計連携及び電子原本と紙原本の区分を整えます。
電子会計記録・税務調査対応
保存期間、アクセス権限、操作ログ、検索、バックアップ及び税務調査・監査時の提示方法をルール化します。
このような会社に適しています
- 電子承認を導入済みだが、承認後に紙を集めて保存している
- 数電票のPDF・OFDは保存しているが、構造化データとの対応が明確でない
- 外部証憑、社内会計伝票、承認履歴及び支払記録が別々に管理されている
- 用友・金蝶等の会計ソフト又はクラウドサービスの更新を予定している
- 日本本社へ、中国特有の電子証憑、保存方法及び税務調査対応を説明する必要がある
支援の進め方
証憑・システム・保存実務を整理
承認・会計・保存の流れを可視化
権限・原本・証跡・例外処理を明文化
設定、試行、教育、運用確認を支援
中国子会社の会計帳票電子化・電子承認の準備相談
釘釘・企業微信の承認プロセス、数電票・電子証憑と会計処理の連携、電子会計記録及び税務調査時の提示方法を、現状確認から段階的に支援します。全体設計だけでなく、特定業務のスポット支援にも対応します。
お問い合わせ・ご相談はこちら10 まとめ
中国の会計帳票電子化は、全面電子化を実現した先行企業が存在する一方、企業全体としてはなお移行途上です。現在の差を生んでいるのは、法制度の不存在ではなく、紙と電子の併存、システム連携、管理体制、企業規模及び中央の制度設計と地方の執行実務との時間差です。
方向性は電子化推進へ大きく傾いています。日系企業にとって重要なのは、制度の完成を待つことではなく、電子承認、数電票・電子証憑、会計処理、保存及び監査提示のどこが分断されているかを把握することです。現状診断から承認フローの再設計、電子原本の管理、規程整備及び導入定着まで、必要な範囲を段階的に整えることで、制度変更への対応負担と税務調査時の説明負担を抑えられます。
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